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時はすぐに過ぎていく。
梅はすっかり綻んでいる。
青年は痩せ細っていた。
今日は気分が良かった。
だから梅と空を眺めていた。
急に頭がぼやけた。
咳は出ていない。
景色が変わっていく。
ふと梅の花びらが散り、太陽と重なった。
一瞬、土方が見えた。
市村は微笑み、倒れ薄れゆく意識の中で呟いた。
それも誰にも聞こえない様な声で。
「あなたは梅が好きなのですね」
ほつりと消えた意識。
梅の木の影は静かに重なった。
名残雪が降り始めた。
白い肌を飾ってゆく。
青年とその愛しき者が出会えたかは誰も知らない。
春は長いものだから。
残桜 終
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