第一章「紫煙の香り」

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2022年2月某日 -中華連邦共和国北部国境付近旧江蘇省連雲港近郊最前線- この奇妙な戦争が始まり早14年が経った。 かつて戦争らしき戦争では無いとまで言われた、だれた戦場も漸く戦火がまして来たのである。 「第三小隊との通信途絶!! 撃破された模様!!」 通信強化装備機の搭乗員が悲鳴めいた声で叫ぶ。 機体は目立たないよう、濃緑の森林迷彩でカラーリングされ、背中の推進機の上には他の機体より大きな通信用のアンテナが数本伸びている。 「第四小隊の支援砲撃まだか!?」 列機の無線を受けた中隊長と思しき搭乗員は怒鳴る様に聞きかえす。 中隊長機は無線用アンテナが2本しかないが、推進機に大型の推進剤の容器が2つ生えている。 「ダメです!! 泥沼でスタックしている模様!! 砲撃位置にまだ到達していません!!」 先程の通信兵は、困った声をあげる。 「くっ……、第2小隊に繋げ!!」 「はっ!! アプリコット4より、アプリコット5応答せよ!!」 中隊長は苦虫を噛んだ様な顔で、通信兵に指揮下の小隊長を呼ぶよう命令する。 『こちらアプリコット5どうした?』 「繋がりました!!」 「アプリコット1よりアプリコット5へ。第三小隊がやられた!! 我々は第四小隊の支援に向かう!! 貴隊の武運を祈る!!」 『はぁ!? ちょっ……ブチッ』 中隊長は小隊長の反論を無視し無線を終了した。
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