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こちらは時空サポートセンター2010。
何時もの残業で午後8時を廻っていた。
小田秀忠は目を擦り大きな欠伸をひとつした。
「ヒデ。お先です。」
「あっ、俺も帰ります。」
堺を追いかけて部屋を出た。
「これから一緒に飯でも喰う?」
堺が信号待ちで話しかけてきた。
「ああ…ちょっと寄る場所があるんで…すみません。」
堺は肩を窄めて、信号が青になると「じゃあな」と軽く手を上げて歩道を渡った。
小田秀忠は堺と反対方向へ向かい、大通りから細い路地に入り10分程歩いた。
辺りは小さな飲食店や酒場などが連なっていた。
その中の小さなバーの扉を開けた。
「いらっしゃい。」
カウンターから声をかけられた。
「お腹すいた~。」
カウンターに座った。
「いつものやつか?」
コクリと肯いた。
小田秀忠が来るのが分かっていたのか、カウンターにオムライスとコーラが出てきた。
「頂きます。」
オムライスを勢いよく食べ始めた。
「あの~」
ひとつ空いた隣の席から声をかけられた。
横を向くと、髪の長い若い女性がグラスを片手にこちらを見ていた。
「お訊きしたい事があるのですが?」
「…?」
オムライスを口に運ぶ。
「時空サポートセンターって知ってますか?この辺りに有ると聞いてきたんです。」
「……!?」
驚いてスプーンを加えてしまった。
「なっ、何ですか?それは?」
「友達から聞いた話ですが、自分が行きたい時代に連れて行ってくれると。」
「……?」
「知りませんか?」
「さぁ…?」
と、首を傾げた。
「やっぱ、都市伝説ですかね。」
カウンターの中のバーテンダーがクスリと笑った。
オムライスを食べ終えて隣の彼女に訊いてみた。
「ちなみに、どちらに行こうと思ってるのですか?」
「幕末です。幕末。一度でいいから本物の新選組が見てみたいです。」
「へぇ~」と彼女に関心がないように答えた。
『幕末なんて冗談じゃない!!アホかっ!!あんな面倒なとこ』と、腹の中で叫んだ。
暫くすると彼女は酔いが廻ったのか、眠そうな顔でこちらを見た。
「お客様、タクシーをお呼びしたので表に参りましょうか。」
バーテンダーは彼女を抱えると店を出て行った。
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