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夕暮れ電車
――とある場所の、名も無い電車の中で
夕焼け色に染まる車両の座席に、女の子がひとりぽつんと座っていました。
その女の子は、どうして此処に居るのかわかりません。
ただ、彼女のココロの中は、何故か深い悲しみと淋しさで埋め尽くされていました。
『ガタン、ゴトン――ガタン、ゴトン』
電車は音をたてながら、止まることなく進みます。
(どこに向かっているのだろう?)
女の子は、窓から外を覗き込みました。
見えたのは、電車と同じように夕焼け色に染まった、どこか懐かしい風景。
けれども彼女には、その景色を見たという記憶がありません。
女の子は気づきました。
(この景色は、私が見たいと――見ることができた筈の景色だ)
と。
女の子は夕焼けの中に吸い込まれていくその景色を、一つも見逃すまいと食い入るように見つめました。
次第に景色は殺風景な物に変わり、辺りも暗くなってきました。
女の子が電車の進行方向に目を向けると、先程の暖かい夕焼け色とは正反対の、深く冷たい藍色の世界が広がっていました。
女の子は怖くなりました。
しかし、彼女の気持ちはお構いなしに、電車はぽっかり開けられた闇の口の中へと進んでいきます。
(怖い…怖いよぉ…助けて)
そこまで呟いて、女の子はつまりました。
彼女は誰に助けを求めればいいか、わからなかったのです。
助けてくれる人の顔を、一人も知らなかったのです。
(怖いよぉ…淋しいよぉ…もう独りはいやだよ…)
女の子は次第に泣き出してしまいました。
涙の止め方はわかりません。
誰一人として、教えてくれなかったからです。
徐々に藍色に侵食されていく電車の中で、女の子の啜り泣きだけが響きます。その時、
『ガチャ』
車両の扉が音をたてて開き、藍色の車掌服を着て、斜めに制帽を被った少年が現れました。
(お兄ちゃん、だあれ?)
女の子は突然の出来事に驚いて、涙を止めて尋ねました。
「俺は死に神」
少年が答えました。
けれども彼女は、『しにがみ』が何を示すものかわかりませんでした。
(お兄ちゃん、ずっとココにいたの?)
「この電車に乗る奴を、向こうに送り届けるのが、俺の役割だからな」
少年の言葉は硬く難しくて、女の子にはさっぱり理解できません。
でも、それを彼女は気にしませんでした。
彼女が今知りたいのは、
(お兄ちゃん、一緒に居てくれる?)
少女の無垢な瞳を向けられ、死に神の少年は、少しだけ表情に驚きを浮かばせました。
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