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切符を買って電車に乗ったのだが、乗り込んですぐ違和感を覚えた。
乗っている乗客はだいたい十五人くらい。
直列の席の一番隅にはカップルが人目も気にせずにいちゃついている。
違和感があるのはそのカップルじゃない。
その他の乗客全員だ。
帽子を深く被った老紳士、ポニーテールの少女、小太りの男性……。皆が何をするするわけでもなく、一様に下を向いて微動だにしないのだ。
乗ってきたぼくに視線を送る者はひとりもいない。
寝ているのかとも思ったが、無表情な顔の中に虚ろに見開かれた目を認めると、ぼくは夏にもかかわらず薄ら寒さを覚えた。
降りようとしたが、扉は目の前で音を立てて閉められ、電車は動き出してしまった。
ぼくは仕方なくなるべく端の方の席を選んで座った。
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