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「がぁ……? き……貴様!」
剣を振り下ろそうとして英雄グラウスは、僕が放った殴打でよろめき、一歩後ろに下がった。
「もういい、もういいよ……お前の言葉はもういらないんだよ」
僕は横たわる孝一から視線を外して立ち上がり、英雄グラウスに体を向ける。
「いらない……もう僕にはいらない」
鎧を着けていれば、剣での攻撃をある程度防げると思って着用していたが……もういらない。僕は身につけていた鎧を外し、地面に全て落とした。
「外す機会もなかったし、剣の一撃の重みと威力を増させるために……重りだって着けたままだった」
でもそれももういらない、邪魔なだけだ。
「貴様……防具を捨てるとは、命がいらないのか?」
僕は剣士じゃない。なのに無理に剣を使おうとして兵士になってから本来の得意分野の力を出そうとしなかった。そっちの方が安全だと思ったからだ。
だけどわざわざ動きを鈍らせる重りなんて……鎧なんてもういらない。
だが剣を防げるのは剣だけだ、だから剣は捨てない、でもそれ以外は捨てる。
「貴様……一体どれだけの負荷を体に?」
鎧と重り、その全てを外して地面へと捨てた瞬間、僕の体は羽根を身につけたかのような感覚に包まれた。
私服でこんなに体が軽いと感じたのは何時ぶりだろうか?
もう遠慮はいらない、一撃でも剣を喰らえば死ぬような状態でもいい。今は目の前のこいつを、倒したくて倒したくて仕方が無い。
「お前だけは…………僕の手で……拳で倒す!」
「ふん……拳でだと? 剣ではなく拳で? っは……笑わせる。そんな貴様に良い事を教えてやろう」
英雄グラウスはそう言うと、僕に剣を向けて突進してきた。
「人は突然強くなったりなどしないのだ!」
突進して来た英雄グラウスはすかさず剣を僕の首めがけて振り下ろす。だが僕だって只突っ立ってるだけな訳がない。
「んな!?」
剣を受けれるのは剣だけだ、でも避けれるなら受ける必要はない。変に受ければ剣がぶつかった時の反動で剣を引っ込められ、次の攻撃がすぐに飛んでくる。
でも避けられれば次の動作に移るのに時間が掛かる。
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