第五項目 僕がそんなの認めない

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「もうやめてください! それ以上やったらあなたが……あなたの心が壊れてしまいます!」 「皇女様……」 「もう……大丈夫です。グラウスは動ける状態なんかじゃありません」  そう言われてようやく胸の中でざわついていた怒りが消え去り、いつもの平常心に戻る事が出来た。  助けられ……た? 僕はもう少しで目の前の男を殺してしまう所だったのかもしれない。  どうやら皇女エミリスの優しさに助けられたようだ。 「何故だ……?」 「……何故?」  倒れた英雄グラウスは傷ついた荒い呼吸をする体で、上下に体を動かしながらそう呟いた。 「何故最初からそうやって戦わなかった? ……そうすればそこの俺が斬り刻んだ男も……あんな風には……」 「人数の関係もあった。それにたまたまだよ……戦いなんて戦ってみなければ勝敗は分からない。それなのに戦っても勝てると思い込んでいたあんたの慢心が、見た事のない戦い方に翻弄されるはめになって負けに繋がったんじゃないか?」  僕は怒り、死んでもいいから倒したいと思った。でも英雄グラウスは絶対に勝てると弱い者をいたぶる感覚で戦った。それが勝敗を分けたんだと思う。  油断さえしていなければ、僕は英雄グラウスに負けていただろう。  実際、命をかけた戦いの経験だってあちらの方が多いのだ、当たり前だ。  僕が勝ったのは……只の思いの強さの違いだけ。死んでもいいからと本来の力を出すべく、防御を捨てた結果が今のこの光景なのだと思う。 「貴様は……この国の人間じゃないな?」 「……そうだけど?」 「何故そうまでして皇女様を守ろうとする? 貴様はあの時、我々に味方をしていても良かったはずだ。むしろそちらの方が生き残れる確立が高かったはず」 「そんなの……簡単だよ」  元の世界に帰るための条件が真の黒幕を見つけ出す必要性があるかもしれないと思ったから? いや……そうじゃない。  僕を心配そうに見つめる皇女エミリスとわさびの姿を見て、自分の思っている気持ちを再確認して口を開く。 「僕が求めるハッピーエンドは、大切な仲間が誰一人欠けてはいけないんだ」  そしてそれを奪おうとしたお前達を、僕は許せなかっただけ……それだけだ。
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