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「アンタが軍師だって言うなら主に苦労をかけてまで生かす必要があるのか? 死ぬまで追われる身のくせに。生きていればいい事があるとか夢見てるのか?」
「それは……」
「どれだけの事がアンタに出来る? 飢えを凌ぐために自分の肉を食わせるのか? 家が無ければアンタが建てるのか? 金が無ければアンタが体で稼ぐのか?」
ついに軍師は口を閉ざした
「何も考えず感情で物を語り、あまつさえ主君に生き地獄を味あわせようとしているアンタに軍師として、部下として口を出す権利はねえ。黙ってろ」
後ろに立つ女に目で合図すると、何も言わず軍師を董卓から離した
眼鏡の軍師よりは話が分かるようだ
主君の選ぶ最後の道に異論を唱えると言う無粋な真似はしないと見た
目の前に残された少女は、俺を無垢な瞳で見据える
「お名前を、お聞かせねがえますか?」
「……政宗だ」
「政宗さんですね。私は董卓と言います」
今のこの状況は怖いはずだ。だが、それをお首に出さず気丈に振る舞っている
「私を、処刑してください。もうこれしか罪を償う方法は残されていません。どうかお願いします……」
少女は、死を選んだ
だが、小さな手を握り締め目を逸らさずにいる、この少女の考えなしに口にした言葉が引っかかってしまった
「死んだら罪は償われると、本気で言ってやがるのか…?」
「はい。それしか出来ません」
「董卓軍は阿呆ばっかりだな」
ため息をついてしゃがみこみ、董卓と視線の高さを合わせる
「死んで償うってのは逃げだ。お前が死んで誰が救われる? 誰が生き返る。たかがお前一人死んだところで“なべて世はこともなし”だ」
死んで償える罪なんて存在しない
誰も救われないし、誰も報われない
「良く聞け。罪を償いたいなら、生きるべきだ」
ここから先の言葉を、後になって俺は後悔した
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