始まった夜

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今ひとつ、星が瞬いた。 僕はあの夜、あのライブ会場へと足を運ぶべきではなかったのかもしれない。 あの夜から全てが違ってみえてきていた。 ――――― 今日の授業も終わり、 部活に所属しない僕は(ラグビーやら野球部の顧問にもったいない、だとか言われるくらい体格はいいほうらしいが帰宅部) さっさと道具を鞄に詰め、 連れ立って帰って行くクラスメイト同様に教室の後ろの扉へ向かう。 が、しかし ガツッという衝撃とともにヘッドロックが後ろからかまされる。 こんなことをするのは一人だ。 そこまでガタイがいいとは言えないが スポーツ万能、直。 なぜか僕より細いその体で力はある。 ・・バカ力ってやつか? 「なぁ、行こうぜーっ!あのライブお前も絶対気に入るって!」 「えっ。・・今日用事が」 友達の直がライブのチケットを僕に押し付けてくる。 なんでも、直の友達2人が行けなくなったみたいで分捕った・・いや、譲り受けた、らしい。 「今日はダメなんだって!」 秋。 夜が早々と訪れるようになった肌寒い帰り道。 ・・僕はまた断れなかった。 直はいつも強引なんだ。 クラスのひょうきんもので明るくて楽天的なのはとてもいいことだ。 だが、なにぶん大雑把すぎる。 手には握らされた新しいチケット。 若干くしゃくしゃなのは直に突き返してまた戻されたからだ。 ため息をつきながら、夜空を見上げた。 “なんで断れないんだろ” 上に見えるのは、街の明かりから逃れてきた数少ない星達。 仄かに赤く光る月がさらにその星を邪険にする。 僕はそれを見てまたため息をもらした。 月が丸く円を描きそうで描かない9月の夜。 僕はあのチケットのライブ会場の入口前で直を待っていた。 なのに・・・ 「来ないっ!遅すぎる!!」 いらいらする。 とっくにライブは始まっているというのに。 連絡はあった。 メールで届いた内容は『ワリーッ!!時間あるだろーって思って投げ込みやってたら、忘れてた!! 着替えるから遅くなるわ』 寒いかと思って着てきた カーキのダッフルコートのポケットに両手を突っ込んでもう少しだけ待ってみる。 あー、だるー・・。 数十分前まではライブを待つ人の列で溢れかえりガヤガヤとうるさかった開場前が、今じゃ猫のなく声も響く位の静けさだ。 僕の周りには誰もいない。 道路を数m間隔で照らす街頭が 少し気持ちをほっとさせる。 闇の中で一人だなんて いくらなんでも寂しいだろ、コレ。
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