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一節
ぴーちっち、ぱーちっち。リビングでインコ二匹が自己主張の激しい声をあげる。
うっせえ。これまた自己主張の激しい怒声が響く。母だ。睡眠はちゃんととっているはずなのに四六時中寝ている、だらしのない母だ。
その一言でインコ共は押し黙る。分かっているのだ。今黙らないと死ぬ、と。
そして、俺の母は当事者である俺もびっくりするぐらいの放任主義だ。
友人に母を見せた後にその話をすると、決まって彼らはその事実を否定する。それぐらい身なりは整っているのに、彼女が布団から出ることは滅多にない。
なぜ俺はこの母親のもとでこんなに立派に育っているのだろうかと、普段の清掃の甲斐あってわりとピカピカの浴槽にタワシを走らせながら考える。
がしゅがしゅとタワシが粗い旋律を奏で、俺の背中はそれに合わせて伸びたり曲がったり。
「兄ちゃん、なんで母ちゃんすぐ寝てしまうん?」
「うっせえっつってんだろ!」
俺の小さな呟きも聞き逃さないその聴力、嫌いじゃないぜ。
などと思いながらも、口には出さない。俺の母は割りと沸点が低いのだ。しかし、俺は決して怯えている訳ではない。より良い家庭を築くため、我慢しているだけに過ぎないのだ。
などと誰にするでもない言い訳の制作に取りかかっていると、タワシの取っ手部分にカビが生えているのが見えた。すかさず泡と湯で洗い流すが、カビに指が触れてしまった。嘆かわしいことだ。
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