隙間を見つける姿勢

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パカーン 乾いた快音が、今年もこの地を賑やかにし始めてから、既に数日。 監督は言う。 今キャンプは、死闘の場とする。ともかく、アピールをしろ。俺に使いたいと思わせろ。レギュラーだけじゃなく、全てを白紙にして、俺はチームを作り直すと。 よく聞くような台詞だ。リップサービスなのかもしれない。だが、その台詞の真偽、有無を無しにしても、結局やるべきことは練習とアピールだけだ。 俺が所属する球団、陸奥クリスタルファルコンズは昨年度最下位に喫してしまっている。それに伴い前任のステファン監督は解任され、今年から闘将と呼ばれる本間監督が就任した。それに合わせて、チームスタッフも様変わりし、゛このチームをワシ好みに作り直す゛と本間監督は明言している。 これはチャンスである。新任監督はチーム全体を知ろうと、一通りは必ず選手をチェックするのが通例だ、そう先輩たちが言っていた。 “選手名:東雲風希 評価:高校生投手としては上背もあり、纏まっているが、直球にしろ、変化球にしろ、プロでやっていくにはもう一つ足りていない。野手としては上背の割には打球が飛んでいないが、守備も動きが良く、将来性を考えたら、まずまず。” これが、俺のプロ入り前の評価だ。たいてい、どの雑誌でもこうだ。場合によっては、゛ミートそこそこ良い、バットコントロールまずまず、パワーまずまず、守備良い、足の速さまずまず゛なんていう、小学生の手抜きの日記のようなものまであった。 当時は人をおちょくっているその評価を掲載した雑誌を、目についた限りは水没させていたものだ。 破ったりしたら、周りに印象が悪いでしょ。 だが、プロになり二回の年明けを迎えるまでには、結局その評価は間違ってなかったことを痛感する。
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