スノーフェイス

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スノーフェイス

. 「あっ、雪……」  仕事を終えた私は一階のロビーを出て直ぐに、夜空を仰いだ。  今日はクリスマスイブ。  用事のない私は一人で残業を引き受けて、今年も寂しいイブをやり過ごしていた。 「何年振りかな?ホワイトクリスマス……」  白いロングコートの袖にふわりと落ちた雪をそっと摘んでみた。  柔らかい雪は私の指の中で直ぐに溶けて、冷たさだけがいつまでも指先に残っていた。  黒のロングブーツでアスファルトを叩く。  コツ、コツと私の歩調に合わせて心地良い音がビルの壁に反響して、私の耳まで戻ってくる。  歩き慣れたオフィス街を私は地下鉄の駅へとゆっくり歩いた。  地下鉄の構内は人混みで溢れ返り、所狭しと並ぶ色々なお店と通路は、どれも赤と緑一色だった。  ケーキ屋さんの前にはサンタクロースがケーキを買えとパフォーマンスを繰り返していた。  よくよく考えてみると、子供に夢を与え、大人にはロマンチックを与えるサンタクロースの筈なのに、目の前に居るサンタクロースはケーキを買えとうるさかった。  そんなサンタクロースを見ながら、私は心の中でクスクス笑ってた。 「直樹、頑張ってるかな?」 .
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