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季節はいつの間にか冬へと姿を変えていた。
急に肌寒くなった雨の日、アキコはうす暗い道を歩いて帰宅しようとしていた。
「さむっ」
首元に冷たい風があたる。
今朝あわててクローゼットから引っ張りだしたダウンの衿元を、アキコはひきよせた。
足元の水たまりが、アキコのブランドのヒールにしみをつくる。
アキコは早く帰ろうと足早に歩いていた。
だが道端にうずくまる黒い影を見つけて、歩くスピードをゆるめた。
アキコはその黒い影を見つめた。
一人の青年がダンボールの前に座りこんでいた。
雨が降っているというのに、青年はカサを持っていなかった。
それどころか着ていたブルゾンを脱いで、ダンボールの上にかけだした。
何をしているのだろうと気になったが、めんどうはごめんだった。
アキコは再び足を速めて、青年のそばを通り過ぎようとした。
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