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「お父さん、じゃあ私お買い物に行ってくるね!!」
元気な声が、家の中に響く。
お父さんはしわしわの目尻により一層皺を刻み、穏やかに微笑んでくれた。
最近お父さんは前よりもっと耳が遠くなったようだ。
話しかける時は相当大きな声を出さなければならない。
「行ってきます!!」
大きな声で言い、少しガタがきているドアを開け外に出た。
途端に鼻をかすめる、潮の香り。
くん、と鼻を鳴らしてそれを吸い込み、街へ向かって歩きだした。
私の住む王国、ニュー・カルフィード。
油田大国として目覚ましい成長を遂げているこの国は、豊かな自然で溢れている。
道路沿いに並ぶ木々を眺めつつ歩く、街への一時間。
私はこの時間が大好き。
「良い風…」
ニュー・カルフィードは、一年を通して温暖な気候だ。
12月だろうと2月だろうと雪は降らないし、コートなどとは無縁。
現に、1月だというのに私はカーディガンを羽織っただけの恰好で歩いている。
今日はお芋と小麦粉を調達せねばならない。
財布の中には少ない残金。
だから、どれだけ値切れるかがお給料日までの生活を左右してしまう。
全ては私の手腕にかかっていた。
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