ありふれた奇跡の物語

アップルレンジ

ここは大陸の西に位置する小さな村にある小さな雑貨屋。

普段から繁盛しているわけではないこの店も、今は客足を賑わせている。

だが、いつもと違うのは客足だけではない。

狭い店に綺麗に並べられたティーカップ等の小物を求めてやって来る女性客が大半のこの店が、今は若い男性客で溢れている。

その男性客は皆、店に並べられた可愛らしい小物には目もくれず、ぬいぐるみが積まれた店の一角を凝視している。

もちろん村の若い男性が急にぬいぐるみに興味を持ち出したわけではない。

集まった男性達の目的は、積み上げられたぬいぐるみの中に上半身を腰まで突っ込んだ女性だった。

ぬいぐるみの中から時折聞こえてくる｢この子でもない…｣｢こっちの子も違う…｣といった声と、その光景は異様にさえ映るが、男達にとってそこは気になるものではなかった。