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EX-Girlfriend.
平成34年の7月13日は何の変哲もない夏の1日だった。
外ではセミの合唱が聞こえるけど、耳は既に麻痺している。
クーラーはつけているけど、彼女は冷え症だから室内の気温は28℃一定だった。
「暑いね」
「じゃあ離れたら?」
僕はそのまま、彼女の膝から離れなかった。
今、この瞬間もすべて幻影。
そうわかっていても、願わくば永遠に、この虚像のなかで僕は生きたい。
この空間、ソファもキッチンもフローリングも、テレビもその映像も、そして彼女も。
EX-Girlfriend(元カノ)と呼ばれる〝殺せる幻〟なんだ。
人類は写真を作り、映写機を作り、そしてEXを発明した。
超空間録画装置、5Dレコーダーとも言われている。
空間をトレースし、細部に至るまでそれを再現する装置の俗称。
それが〝元カノ〟だった。
それだけでも想像を絶する技術だけれど、元カノと呼ばれるこの装置の真髄はさらに先をいった。
人体の皮膚はもちろん、毛穴、眼球、唇、うぶ毛、吹き出ものやフケに至るまで、すべて完璧にトレースした。
外見はもちろん、内面、行動パターンまで。
人間すらも録画することに成功したんだ。
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