縁側。

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日中の太陽が、西に傾き出した頃、我が家の縁側には、暖かい日が差し込む。 私は、縁側に腰を下ろし、庭を眺めていた。 思い返せば、ここ何十年、こんなにゆっくりした時間を過ごした事は無かった。 毎日のように、満員電車に揺られ、汗水流して働き、必死で家族を養い、好きだった酒も止め、なんとか子供達を大学にまで行かせ、気がつけば私は、随分と年を取ってしまった。 長かった会社勤めも、先月を持って、定年退職。 堅苦しい都会から離れ、少し片田舎のこの家を、今まで頑張った自分へのご褒美と、退職金を使って購入した。 別に、土いじりがしたかった訳では無い。 田舎に憧れていた訳でも無い。 ただ、妻と残った人生を、のんびりと過ごしたかったのだ。
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