-Rikuto-

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クリスマスの季節がやってきた。 周りの連中は色めき立って、盛り上がっている。 正直大きくなるにつれてクリスマスに胸を弾ませることもなくなったけど。 今年は橘がいる。 夜は大丈夫だって言ってたし。 二人でゆっくり出来たらいいかな…。 と考えていた時に本屋で剛に偶然会って、料理の練習をするという剛に台所を貸すことになったんだ。 ハンバーグを提案したのは、口から自然とこぼれていたからで。 …俺は思い出していた。 確か俺が小学生だった頃、クリスマス前に母さんに教わりながらハンバーグを作ったことがあった。 兄さんに喜んでほしくて、驚いた顔が見たくて。 兄さんの帰りを今か今かと待った。 ………。 でも一向に帰ってくる気配はなく。 父さんも母さんも仕事でいなくて、連絡しようにも番号知らないし、俺は一人でじっと待っていた。 「兄ちゃん…」 ぽつりと呟いたその時、電話が鳴った。 俺は兄さんかもしれないと、飛びつくように受話器を取った。 「もしもし!」 『…夜分遅くすみません。橘です』 「橘…?」 兄ちゃんじゃなかった…。 橘って父さんの会社の人だっけ。 『あの陸斗さん。こんな遅くまで起きてらっしゃるんですか?』 「うん。兄ちゃん待ってんの」 『來斗さんを?』 「そう。俺、初めて料理したんだ!絶対兄ちゃん喜んでくれるよ!」 『…そうですか…。分かりました。ではまたご連絡します。おやすみなさい』 「うん。おやすみ」 何の用だったのかな…。オレには関係ないか。 時計は12時を回ろうとしている。 テーブルには、冷めたハンバーグ。 幼いながらに薄々感じていた。 これ以上待っても意味がないことを。 それでも純粋に、ただひたむきに、わずかな望みに懸けていた。  
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