0人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
3
「ここから飛ぶのは、どう?」
歩道橋の上で、オレはそいつに話しかけた。
「え?」
そいつは振り向いて、首をかしげた。風に短めの黒髪が揺れる。風の音で聞こえなかったのかも知れない。
「だから、ここから飛ぶのはどうかって」
「あー、それは嫌」
すこしだけ申し訳なさそうな顔をして、そいつは答えた。
「どうして」
「もう、決めてあるんだ」
そいつはそう言って、持っていたビニール袋を示した。ホームセンターの袋だ。中には何が入っているのだろうか。
「ついてきて」
そいつはオレの手を握って、早足で歩き出した。冬の冷たい空気の中、その指の温度はオレの体表に熱を分け与えた。
しかし、その温度は心に沁みない。心が暖かさを受けいるには、もう重く固まりすぎているのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!