恋談義

8/8
147人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
「樹里さんは、ドロドロした始まりの恋がお好みなんですか?」 氷川君には話が通じたようだ。 「そうじゃないけどね。鉄幹は教員だったのに女生徒2人を孕ませて、それから先も2人の間をウロウロしてた。そこに押しかけてきて不倫して妻におさまった晶子でしょ。2人して本当ダメダメな感じなのに、結局子供12人も産み育てて最後まで添い遂げてるんだよね」 「そうなの」 「うん。ジョンも不倫で付き合ってたヨーコを、奥さんの旅行中に家に呼んで同棲始めたりさ。褒められた始まりではないにしろ、鉄幹と晶子、ジョンとヨーコが一緒にいた時には、創作活動が高まったり、平和活動をしたり、政治的に動いたりして……非凡なことを志して行動してしまえる関係って、面白いじゃない。影響ってのを超えて、人生が大きく変わって。それって誰の中にもある可能性なんだけど、人生のどこかであなた平和活動やりますか?って言われると、出来る気もしないし、望みもしない。非凡なことをやるスイッチが入る関係って、非凡なほど情熱的なんだろうなって。無気力代表選手としては思ったりする訳です」 「なるほどねー。要は、情熱的な恋が理想ってことね」 「叶わないから理想なのさ。望んでるかって聞かれると、それはまた別の話し」 結局はこうやって、うだ話をして今を楽しめたらそれでいいんだけど。 今更多くを望んではいない。 けれど“この年になって”もうそんなこと望まない、と言い続けてきて、今となっては10年前の自分に言ってやりたくなる。 “この年になって”なんて一端の口をきくな若造が、と。 別に今に何か不満がある訳じゃない。ただ、多くはなくとも少しの欲を出して何かを望んでいれば、少しなりとも違った自分や現状だったのではないか、と思わないこともない。 そう思う自分がいるから、10年後の自分に同じことを言わせないように、少しだけ欲張りになってみようか、なんて何処かで思っていたりもする。 何にしても、全ては風まかせ。運んで来られる縁も、運ばれて巡り逢う縁も。 その時、目の前に咲いている花を、ただ愛でるだけ。 それ以外には思い付かないのだから仕方ない。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!