それは坂の終わりへ

11/14
2669人が本棚に入れています
本棚に追加
/115ページ
「五月蝿い! いらなかったものまで産んだあいつらなんて、死んで当然よ! そもそもどうして殺しちゃいけないの? 嫌だから殺してなにが悪いのよ!? 私の家族でしょ? 私の勝手にしてなにが悪いのよ!」 「じゃあ、どうして一番憎い私を最初に殺さなかったの?」  冬美の前に、雪美が立った。冬美は苦々しげに雪美を見上げる。 「どうして? 理由なんてない。どうせ皆殺すんだもの。どれから殺すかなんて、選ばなくても良いでしょう? 産まれるのは、私だけで良かった。なのに私を苦しめるものを産んで、のうのうと生きているなんて、あいつら狂っているわ! 私が正常なのよ!!」  冬美が嘲笑する。雪美はそれを悲しげに見つめて、僕の後ろを通っていった。 「雪美?」 「……冬美はね、昔からおかしなことを言っている子だったの。他人の前では明るい子。でも家族の前だと、理不尽に癇癪を起こす子だったの」  僕は冬美を押さえていたから、動くことが出来ない。だが、明らかに場の雰囲気が変わったのは理解出来た。 「だから、私はずっと貴女が外でも癇癪を起こさないか不安だったわ。だから、少し過保護になっちゃったけど。ああ、そうだ冬美。あの時、お父さんは刺された後もまだ息があったのよ」 「なによ、あいつ生きて――なんであんたがそんなことを知ってるの?」 「知っているよ。貴女の後を追っていたから」  僕は思わず冬美の腕から力を抜いてしまった。その隙に冬美は僕を振りほどいて立ち上がる。そして短い悲鳴をあげた。  何事かと思って振り向くと、雪美は出刃包丁を手にして立っていた。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!