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「俺は卒業と同時に引退したんで。」
「そうか、そうだな。おまえ今は大学生か。」
「はい。」
「残らなかったのか?タカヤが残ってほしがってたのに。」
「はい。タカヤももう引退ですよ。」
「そうだな。二十歳か。」
「いつまで、いるんですか。」
「あと数日かな。マナトは元気にしてるか?おまえが抜けて、タカヤも抜けるんじゃ不安がってるだろう。あいつは自分を過小評価するから。」
その通りだ。さすが、マナトのことをよく解ってる。それも、腹が立つ。
コーヒーが運ばれてくる。それぞれの前にコーヒーカップが並ぶ。
藤原さんがコーヒーカップを口に運ぶ。
その手の薬指に、指輪が光ってる。
前はしてなかった。一度タカヤと藤原さんが結婚してるかどうかって話になって、指輪を確かめたことがあった。
「まさか、マナトに会う気じゃないですよね。」
「え?」
藤原さんが俺の顔を見る。
「今さら・・・あいつやっと立ち直ったんです。」
「ユズル・・・知って・・・。」
藤原さんは動揺している。
「見掛けたことがあったんです。藤原さんとマナトが居るのを。まさかと思ってたけど、藤原さんが居なくなってからのマナトを見れば一目了然です。」
藤原さんの表情が陰る。
「そうか。けど、仕方なかったんだ。辞令が出れば、従うしかない。連絡したがあいつがでなかったんだ。」
「そんなの、関係ないだろ。」
つい口調が荒くなる。
「あいつだって連絡してこなかった。」
藤原さんは表情こそ暗いけれど、俺と違って冷静だ。さすがだけど、ムカつく。
「できるわけねえだろ・・・。あいつのことそんだけわかってんだったら、あいつの性格なら連絡できないってわかるだろ。」
「俺にだって事情があっただんだ。それをちゃんと話したかったさ。けれど、そのチャンスさえくれなかったんだ。」
「事情って何ですか。藤原さんが異動になったのって、マナトが踏み込んだ薬の件と関係あるんですか?」
藤原さんは応えない。
当たりか。
「で、栄転・・・。」
以前より着てるものがよくなってる。出世したか。
「栄転とも、左遷ともとれる。」
「でも、出世はしたんですよね。」
藤原さんは答えない。
「で、結婚したんですね。」
「・・・ああ。」
「マナトには会わないでください。」
藤原さんが一瞬俺を睨んだような気がした。いや、実際睨んだんだと思う。
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