再生2

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「俺は卒業と同時に引退したんで。」 「そうか、そうだな。おまえ今は大学生か。」 「はい。」 「残らなかったのか?タカヤが残ってほしがってたのに。」 「はい。タカヤももう引退ですよ。」 「そうだな。二十歳か。」 「いつまで、いるんですか。」 「あと数日かな。マナトは元気にしてるか?おまえが抜けて、タカヤも抜けるんじゃ不安がってるだろう。あいつは自分を過小評価するから。」 その通りだ。さすが、マナトのことをよく解ってる。それも、腹が立つ。 コーヒーが運ばれてくる。それぞれの前にコーヒーカップが並ぶ。 藤原さんがコーヒーカップを口に運ぶ。 その手の薬指に、指輪が光ってる。 前はしてなかった。一度タカヤと藤原さんが結婚してるかどうかって話になって、指輪を確かめたことがあった。 「まさか、マナトに会う気じゃないですよね。」 「え?」 藤原さんが俺の顔を見る。 「今さら・・・あいつやっと立ち直ったんです。」 「ユズル・・・知って・・・。」 藤原さんは動揺している。 「見掛けたことがあったんです。藤原さんとマナトが居るのを。まさかと思ってたけど、藤原さんが居なくなってからのマナトを見れば一目了然です。」 藤原さんの表情が陰る。 「そうか。けど、仕方なかったんだ。辞令が出れば、従うしかない。連絡したがあいつがでなかったんだ。」 「そんなの、関係ないだろ。」 つい口調が荒くなる。 「あいつだって連絡してこなかった。」 藤原さんは表情こそ暗いけれど、俺と違って冷静だ。さすがだけど、ムカつく。 「できるわけねえだろ・・・。あいつのことそんだけわかってんだったら、あいつの性格なら連絡できないってわかるだろ。」 「俺にだって事情があっただんだ。それをちゃんと話したかったさ。けれど、そのチャンスさえくれなかったんだ。」 「事情って何ですか。藤原さんが異動になったのって、マナトが踏み込んだ薬の件と関係あるんですか?」 藤原さんは応えない。 当たりか。 「で、栄転・・・。」 以前より着てるものがよくなってる。出世したか。 「栄転とも、左遷ともとれる。」 「でも、出世はしたんですよね。」 藤原さんは答えない。 「で、結婚したんですね。」 「・・・ああ。」 「マナトには会わないでください。」 藤原さんが一瞬俺を睨んだような気がした。いや、実際睨んだんだと思う。
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