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はじまり
事務所のドアが開く音。
「あれ、マナト?」
俺は机に突っ伏して一人悶々としていた頭を声のしたほうに向ける。
うぃーっすとふて腐れた返事をする。
「なに、具合でも悪い?」
「いや、なんでもないです。」
「ァ、悩み事?」
図星。この人けっこう鋭いとこあるんだよな。
「いや、ダレてるだけなんで」
「じゃあ、これ食うか?」
ユズルさんがオレの顔の前にピンクの紙袋を置く。
オレは体を起こして、紙袋を見る。
「なんですか、これ」
「さぁ?開けてみ」
オレは紙袋の中を覗く。キレイにラッピングされたお菓子が入っている。手作りっぽい。
「あの、これプレゼント?」
「そ、オレがマナトの為に作ったー」
棒読みだ。
「…いやいや、また女の子に貰ったんでしょ、食べてあげなくていいんですか」
「マナト食べなよ」
ユズルさんはそう言うと窓際へ歩いて行く。モデルみたいにスタイルがよくてちょっと中性的な美形の持ち主で一年先輩のユズルさん。掴みどころのない余裕のある雰囲気がいいのか女の子に人気があってしょっちゅうプレゼントだなんだを貰っている。
貰った食べ物はユズルさんの周りの誰かの腹に入る。ごめんね、作った女の子。ユズルさんも摘んだりはするが大切に食べるといった感じではない。
ちょうど小腹が減っていたので、遠慮なく包みを開ける。
中身はクッキーだ。
おっ、うまい。サクサク。
「うまいっすよ、ユズルさん」
「どれ」
ユズルさんも食べる。
「うん、美味いね」
にこっと笑う。
「ユズルさん相変わらずモテますねー」
「いやぁ」
否定しないんだ。まあ、されてもよけい嫌味だけど。
「付き合ったりしないんですか?」
「んー?」
ユズルさんはモテる割に、女気がない。彼女がいるという話も聞いたことがない。
「なにマナト、オレに興味あんの?」
さらっと聞き返してくる。
ねぇよ、男に興味なんか。
ァ…、いや、あった…
あぁ…
一人で撃沈。
オレははぁっとため息をつく。
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