第二十九章:「かなし」

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「っありがとう、阿仁!」 感極まったあぐりが、阿仁に抱き付く。 「幸慈を、頼むな」 「うん、うん」 「気を、つけろよ」 「わかった」 「早く、戻ってこい」 「うん、絶対だよ」 あぐりはひたすら、阿仁の肩口で頷いた。 それがくすぐったいのか、阿仁は笑って、 「それまで俺も、浮気しねぇで待っててやるからよ」 なんて冗談を言えば、あぐりも「言ってろ」と笑う。 そのくらい、二人の空気が和やかになった時。 「ああ!」と阿仁が思い付いたような声を立てた。 「……主上に、俺からも宜しくお伝えしてくれ。直にお会い出来ない非礼を詫びてきて欲しい」 長らく忘れていたとはいえ、元家臣として、その敬意が薄れた訳ではない。 恋敵であることは別にして、思い出した今、それも阿仁にとっては気掛かりであった。 だから、あぐりに委ねることにした。 の、だが。 「――その必要は無いよ」 突然響いた涼しげな声が、否を唱えた。  
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