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「っありがとう、阿仁!」
感極まったあぐりが、阿仁に抱き付く。
「幸慈を、頼むな」
「うん、うん」
「気を、つけろよ」
「わかった」
「早く、戻ってこい」
「うん、絶対だよ」
あぐりはひたすら、阿仁の肩口で頷いた。
それがくすぐったいのか、阿仁は笑って、
「それまで俺も、浮気しねぇで待っててやるからよ」
なんて冗談を言えば、あぐりも「言ってろ」と笑う。
そのくらい、二人の空気が和やかになった時。
「ああ!」と阿仁が思い付いたような声を立てた。
「……主上に、俺からも宜しくお伝えしてくれ。直にお会い出来ない非礼を詫びてきて欲しい」
長らく忘れていたとはいえ、元家臣として、その敬意が薄れた訳ではない。
恋敵であることは別にして、思い出した今、それも阿仁にとっては気掛かりであった。
だから、あぐりに委ねることにした。
の、だが。
「――その必要は無いよ」
突然響いた涼しげな声が、否を唱えた。
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