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話しをするためにはまず、誰よりも美しく咲き誇らなければならない。
何故ならば鹿鳴館には幾多の華族が出席し、その中にはうら若い乙女達も少なくはないのだ。
つまり、どの乙女達よりも煌びやかに目を引く存在でなければ、外交官と取引することはおろか、近づくことすら出来ない。
蘭子からすれば外交官の男には興味ないが、男の方が色仕掛けも効く。
女同士の熾烈な争いのために武装するのだ。
蘭子は榊原邸の自室にて女給にドレスを気付けられていた。
白い壁には風景、人物を描いた西洋絵画が三枚飾られ、落ち着いた濃紺のカーペットにはやはり父が仕事先の西洋で手に入れた木目のバランスが綺麗な家具が置かれている。
その中でも彼女の一番のお気に入りは、二メートルある木製の柱時計だった。
柱時計は焦げ茶色をしているがニスを塗られ光を反射している。
正面扉に取り付けられた一枚硝子は毎日女給によって丁寧に研かれており、文字盤には十二時から三の倍数毎に十カラットのダイヤが埋め込まれていた。
柱時計の正面には天涯付きのベッド。
天涯から垂れ下がる布から枕やシーツ、布団は全て高級シルクが使われている。
ベッド脇には縦長の姿見があった。
蘭子は三面鏡になっているその姿見の前で正面を向いて椅子に座り、女給に髪を結われていた。
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