頑張る!ただそれだけ

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  「はぁ……はぁ……っ」 ある年の12月の始まり。 いつもより少し重くなったペダルを漕ぎながら、夜の河川沿いをただひたすら走る。 吐き出された息が白く舞い、すぐさま後ろに流れていく。 「自転車って、こんなに速かったんですね」 「んぁ?まだまだ速く出来るぞ?」 ちょっと荒くなった息を抑え、後ろの荷台に乗る銀髪の美少女に答えた。 進む速度を上げよう、彼女が楽しむ為に。 そう思い、腰を上げて立ち漕ぎの姿勢に…… 「だっ、ダメです! 転んでケガしたらどうするんですか!」 ……なれなかった。 腰をガッチリとホールドし、銀色の艶やかな髪を風に流しながら彼女が狼狽える。 「うぁっ! くっ付き過ぎだ、バカ!」 や、やわっこい……! 女の子に触れられることに慣れてない俺に、こんなマネはしないで戴きたい。 「あれ? こういうのを狙ってたんじゃ……」 「俺にそこまでの度胸は無ぇよ!」 キョトンとしながら訊ねる彼女にそう叫ぶと、『ツンデレさんですか……』と呟かれた。 違う。 「ところで……」 「どした?」 不安げな彼女が腰に回した腕に力を込めるのを感じ、聞く姿勢をとる。 「もしかして河川沿いの茂みで初体験をさせるつもりなんじゃ……」 「お前ちょっと俺への解釈を改めろ!」 『喝ッ!』と叫ばんばかりの怒号を上げながら否定。 だが、そんな俺の怒りも意に介さず、彼女は俺の背中に体重を預け、そっと憂いた。 「私は構いませんよ?  だって、あと半月しか生きられないんですから」  
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