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「思い出せないか?」
手に取って無言のまま固まる私に
晋作さんが声をかける。
「晋作、
焦らせてはいけないよ」
義助さんはそうやって言ってくれたけど、
何……。
どうして?
私の物だって教えてくれたそれを
どんなに見つめても、見慣れないものばかりで
触れても何も思い出せない。
考えようとすると、
靄がかかってひどい頭痛が押し寄せるだけ。
でも思い出さなきゃ。
私……誰なの?
何で……ここにいるの?
「おいっ。
無理するな」
「そうだよ。
無理しなくていいから」
二人はそう言ってパニックになりそうな
私の背中をさすってくれる。
「高杉、久坂出掛ける時間だ」
いきなり襖が開いて、
もう一人の見慣れない人が顔を見せる。
「栄太郎、
今、行きます」
義助さんは立ち上がると
ゆっくりと部屋を出て行った。
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