嵐の予兆

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「危ない!」  アーミスは慌てて彼女に駆け寄り、腰を掴んだ。 「え……?」  彼女はポカーンと、アーミスを見つめる。 「え……?じゃないだろ!死ぬところだったんだぞ!」  アーミスの強い語気に気押されたように、彼女の目から涙がぽろりと落ちた。 「私の……麦わら帽子……」 「え、ちょ、ちょっと、ごめん!大切なものだった?ごめん、ごめんって!」  慌ててなだめすかそうとするアーミスを見、彼女は突然プッと笑った。 「うそ」 「は?」  一瞬で、涙も止まる。 「そうですよね。たかが15万の麦わら帽子で」  泣きやんでくれたのは嬉しい。だが、しかし。 「15万んんんん?!」 「はい。それがなにか?」 「む、むむむむむ無理です!弁償できません!!」  あわあわと自分の貯金を数えるアーミスを、彼女は面白そうな目で見た。 「なんで弁償とかの話しになるんですか?ただ、帽子を海に落とす場面にいあわせたってだけなのに」 「へ……?えっと……どうしてといわれても、別に余計な考えはなく。ただ、そう思ったから……?」  自分でもよく分からず言うと、彼女はにっこり微笑んだ。 「面白くて、優しい人なんですね」 「えっと……」  そんなにストレートに褒められたのは初めてで、アーミスはポリポリと頭をかいた。 「ありがとうございます。うーんと、」 「セリーナ」 「セリーナ。すごく嬉しいよ」  褒め言葉に返す言葉はこんなんでいいのか……? 「あなたの名前は?」  セリーナが聞いてきた。 「アーミス。アーミス・フローレ」 「あら?船の名前と……」  この反応は名乗るたびにされているから、よどみなく返せる。 「父さんがこの船の船長なんだ。船に自分の名前を付けるなんて、変わってるでしょ」 「いいえ。すごくいいと思う」  セリーナは予想に反して、目をキラキラさせた。 「自分の名前の入った船なんて、素敵!こんど私の父さんにも頼んでみよっと」 「へ……?」  ちょっとまって。それって……。 「さて。そろそろ会場に戻らないと、大臣が怒っちゃうかなぁ。いくらトイレでもこれは長すぎだし。主賓って言われても、楽しくないものは楽しくないのよねえ」  セリーナはムウと頬を膨らませた。 「じゃ、また会いましょうね。アーミス!」  手を振って駆けていくセリーナを、アーミスは呆然として見送った。
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