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私は焦っていた。
額からはだらだらと汗が垂れてくる。
急がなくては、急がなくては……。
走ろうとするのだが、足の動きがぎこちなくうまくいかない。
心臓の鼓動が嫌に耳につく。
もう限界だ、間に合わないかもしれない……。
最悪の結末が、頭をよぎる。
膝はがくがくになって力が入らず、心なしか視界まで歪んできた。
もうだめだ、もう限界だ……。
諦めかけたその時、私の目にある看板が飛び込んで来た。
『いつもニコニコ24時間 らいおんマート』
どぎついオレンジ色の看板に向かって、私は全力で駆け寄っていった。
自動ドアを飛ぶように駆け抜け、一番奥のトイレを目指す。
そう、私はとてつもない尿意と戦っていたのだ。
思えば、寒い時期だというのにもかかわらず、駅の喫茶店でコーヒーを何杯もお代わりしたのがいけなかった。
駅から出て、しばらく歩くうちに寒さに凍えてもよおしてしまったのだ。
おまけにこの辺りは住宅地で、トイレを借りれるようなお店もない。
しかし、自分のボロアパートまでは絶対に保たない。
そんなわけで、トイレを探して彷徨っていたわけだ。
助かった……。
さすがらいおんマート、あんなにCMしているだけのことはあるな、などと感心しながらトイレに真っ直ぐむかう。
安堵の笑みを顔いっぱいに浮かべて、ドアノブを回す。
しかし、開かない。
どうやら中に誰か入っているらしい。
ちくしょーと思ってドアを乱暴にノックしていると、私は何かに気づいた。
……血だ。
私の両手は、真っ赤に染まっていた。
ドアノブにべったりと血がついていたのだ。
気づけば、ドアの隙間からも血が溢れ出ていた。
私は、尿意も忘れ叫ぶように店員を呼んだ。
すぐに、若い女の店員が駆け寄ってきて、血を見ると仰天した声を上げた。
声を聞いて、店内が騒然となる。
騒ぎを聞きつけ、店長と思われる恰幅のいい男がやってきてドアをガンガン叩いた。
それでも開かないとわかると、体ごとドアにぶつかっていった。
大丈夫ですか、などと声をかけながら何度もドアにぶつかっていく。
そのうちに、ベリッという音とともにドアが内側に開いた。
金具が弾け飛んだようだ。
中は、血の海だった。
そして、血みどろの男が便座に腰掛けていた。
明らかに死んでいた……。
そして、私は盛大に失禁した。
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