無職彼女

１

　今日は挨拶と簡単な事務手続きの為だけに出社したから、今はまだ昼過ぎだ。

　ふと立ち止まって空を仰ぐと、雲ひとつない青空。

　会社帰りでこんなに明るいのは初めてだった。

　電車に乗れば座席はガラガラで、小さな子供を連れた同年代の女性と、お洒落なベレー帽を被った老婦人しか乗っていなかった。

　こんな時間に電車に乗るのも、学生の時以来だ。

　ぼんやりと外を眺めていると、間隔は空いているものの一応隣に座っていた老婦人に声を掛けられた。

「可愛らしい花束ね」

　顔を向けると、穏やかに微笑んでいる老婦人と目があった。

「あ、ありがとうございます」

　私も微笑み返した。先ほど事務所で作った笑顔よりも、自然に微笑むことが出来た。

　それは、この１ヶ月間で初めての自然な笑顔だったかも知れない。