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その後、二時間くらいしてからイズル率いる捕縛隊の人たちがお店に到着し……フオンは捕まった。
フオンはお店から出るときに振り返って私に「リラ殿。ありがとうございました」と微笑んで頭を下げてくれて、私も笑ってから頭を下げてフオンを見送った。
「リラさん!」
「あ、ローわっ……!」
「怪我はしていませんか!? 無事ですか!?」
名前を呼ばれて振り返ると、ローズさんが勢いよく近づいてきて私の顔を両手で包んだ。そして慌てたような泣きそうな顔で私の無事を確認してくれる。
ローズさんのその表情と声色にとても心配をかけてしまったと胸が痛む。
「はい。大丈夫です」
「……よかった」
「ごめんなさい。心配をかけてしまって」
「もう、本当ですよ。突然結界が張られて外へ出されたと思ったら、中へ入れなくなって……」
「本当にごめんなさい。みんなの気持ちも考えずに勝手なことをしました」
「本当ですよ。リラさん」
「……リラ。俺たち無理は駄目だって言った」
「ごめん、なさい……」
みんなの表情を見てそれしか言葉が出てこなかった。
「あ……! みんなは怪我とかしてないですか?」
「私たちは大丈夫です」
「どこも怪我はしていませんよ」
「……でも心は傷ついた」
「あああああそれはごめん。本当にごめんね!」
私をまっすぐ見つめ、きゅっと心臓辺りの服を握るルカくんを抱き締める。するとルカくんも私の背に腕を回して抱き締め返してくれた。
「……リラが無事だったから、許してあげる」
「ありがとう」
「……でも次はないから。また無理しようとしたらずっとついて回る」
「うん。ルカくんに迷惑をかけないように気をつけるね」
「……違う。迷惑じゃなくて、助け合いだよ」
「そうだね。うん。助け合いだよって言ってくれてありがとう」
言いながら最後にぎゅうっと抱き締めて離れる。
「リラさん。僕もルカくんと同じ気持ちですよ。もしリラさんに何かあったら僕たちが悲しむことを忘れないでください」
「はい」
私ははっきりと返事をして大きく頷く。
「それと、リラさんを抱き締めてもいいですか。ちゃんとリラさんがいるか不安で」
「え、あ、はい! どうぞ!」
「ありがとうございます」
そっと包み込むように私を抱き締めたユンさんは、私の背中と頭に手をやってユンさんのほうへと優しく引き寄せた。
距離が近くなったことで聞こえてくる心臓の音が少し速いような気がする。とても心配させてしまったと反省。
少しの間、ユンさんの心臓の音を聞いていると「本当に無事でよかった……」とユンさんのか細い声が鼓膜を揺らす。私は聞こえた言葉に返事をするかのように、ユンさんの背に腕を回して少し力を込める。
今回のことはちゃんと反省しないとだ。今回は運が良かっただけ。そう。それだけなんだ。だからフオンが本当の悪者だったなら……私はどうなっていたのかわからない。
「リラさん。ありがとうございます。安心しました」
「そうですか。よかったです」
ユンさんと離れて二人で小さく笑いあう。そして「リラさん」とローズさんに呼ばれたので視線をローズさんへ移すと、両腕を広げていた。私は迷わずローズさんと同じように両腕を広げて、ローズさんを抱き締める。
「おーい。リラー」
ローズさんの背中側からイズルが私を呼びながら歩いてきた。そしてイズルは笑って「リラ。囮ありがとな。それから……」とちょっと強めなデコピンを私に食らわした。
「あでっ……!」
「もうみんなに言われたと思うから、俺からは何も言わない。だけどそれじゃあ俺の気持ちが収まらないからデコピンをプレゼント」
「デコピンより言葉のほうがよかったなっ! けっこう痛くて涙がちょっと出たからね!」
「俺たちも心配で涙が出そうになったけど」
「うっ……それは本当にごめん。以後気をつけます」
「気をつけるじゃなくて、やりませんって言おうな」
「そ、れは……」
ちょっと無理かなあ、とイズルから視線を逸らしつつ言う。
「そうだよなあ。リラは頭通さずに感情で動くもんな。でも今回は運が良かっただけ。わかってる?」
ちょっと貶されたような気もするけど、それについては置いておく。
「うん。わかってる」
「それじゃあいい」
イズルは小さく息を吐いて、私の頭に手をのせた。
「無事でよかった。本当に……ごめんな。囮なんてさせて」
「ううん。大丈夫だよ。私もいろいろありがとう」
「……ああ。あいつのことか。いいよ。なんだか雰囲気も柔らかくなってたし、危険性はないって思ったからさ。でもよく気づいたな」
「まあ、そこはイズルとの付き合いの長さでなんとなくね」
「そ」
「うん。あ、そうだ。一つ聞きたいことがあって、フオンにブレスレットを贈ったんだけど外さないといけなかったっけ?」
「いいや。今のあいつなら大丈夫。何よりリラが造ったものだしね。危険性がないから外さなくてすむよ」
「よかった……」
ほっと小さく安堵の息を吐く。
「あの、すみません。そろそろ私もお話に入ってもいいですか?」
「あ、はい。ごめんなさい。大丈夫です……!」
イズルと話すのに夢中になっていて、ローズさんを抱き締めたままだということを忘れていた。つまりローズさんは私とイズルに挟まれていた状態でじっと待っていてくれたということで……申し訳なさが溢れてくる。
とりあえずローズさんから離れて、彼女の言葉を待つ。
「兄さん。リラさんのことが心配だったにしてもデコピンは駄目よ」
「リラ、ごめん」
「大丈夫。いいよ」
「それからリラさんも。さっきルカさんに無理するようならついて回ると言われたばかりですよね。もし今後今回のようなことがあったら私はリラさんにぴったりくっついて離れませんので」
「え……あ、その、はい。気をつけます!」
「リラ。ローズは言ったら絶対にやる。だから本当に気をつけろよ」
「うん」
私の耳元でこっそりそう言ったイズルに頷く。確かにさっき言い訳ではないけど、それに近しい言葉を言おうとしたら……有無を言わさないような笑みを浮かべられた。
今回のことは本当に反省しているので気をつける。気をつける詐欺ではなく、ちゃんと気をつけます。はい。
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