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 雪の降る日だった。三月末の降雪など三重ではめったにないので、この日のことはよく覚えている。  見上げると、粉雪がぼくを中心に空で渦巻いていて、なんだか幻想的で。  傘はさしていなかった。その必要があるほどの雪でもなかったから。  風がとても冷たく、『空池満月』という名前が編みこまれた妹の手編みマフラーをきつめにまき直すと、信号が青に変わった。  『マンゲツ』とかいて『ミツキ』と読むこの名前は、ほんの少し嫌いだ。  儚げに舞い落ちる雪はアスファルトの上に積もることなく、霜のように表面を凍らせていたので、滑らないように注意しなければ。  そう思い、小股気味に歩きながら、ぼくは海山大河の家へ向かっていた。  大河とは中学の時からずっと同じクラスで、腐れ縁というやつだ。  ダウンジャケットのポケットに両手を入れたまま小さくため息をつくと、それは白い煙になって風にさらわれていく。
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