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「具合の方はいかがですか?」
「だいぶ良くなりました・・・ご心配をお掛けしてすみません」
シンディとディック。
劇場へと向かう馬車に2人は揺られていた。
今日の昼前にマリアはシンディの屋敷へとやって来て「シンディが今日着る服」とコーディネイトした物を置いていった。
相変わらず派手なドレスだった。
花弁を思い出させるようなスカートが目にまぶしいピンク・・・さすがにシンディも着替えることは出来なかったのだが、マリアが帰ってしまった後自分では何を着れば良いのか分からず、普段着ているチュニックにズボン。かわいげなんて微塵も感じさせない服装となってしまった。
そのせいか、さすがのシンディもディックの目を気にしていた。
何度も自分の顔を見てくるものなのでディックもさすがに気がついたらしい。
シンディに顔を向けて「いつもの格好ですね」と笑って見せた。
「やっぱりその格好のがシンディさんらしいですね」
「ありがとうございます・・・」
小さな会話を重ねていると馬車は劇場の前で止まった。
ディックが馬車を先に降りてシンディに手を貸そうと振り向いたが、彼女らしく1人で既に馬車から降りていた。
思わず彼は笑っていた。
その姿にシンディは少し戸惑った。
*
人気の公演と言うだけはある。劇場前には長蛇の列。
「もっと早めに来るべきでしたね・・・」
ディックは長蛇の頭を眺めながら言った。
「私は別に大丈夫ですよ。でもホントにすごい列・・・」
身を乗り出すシンディ。
「危ないですよ」
そう言ってディックは手を握った。
「ごめんなさいっ」
いきなりの出来事にシンディは少し驚いた。
ディックも反射的に手を握ってしまったのか慌てて手を離した。
「す、すみません。いきなり・・・」
「いえ、心配してくださったんですよね。ありがとうございます」
そう言いながらシンディも手を後ろへまわした。
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