桜の木の下で

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2087年3月28日(金) 時計を見ると6時55分。あと5分でアラームが鳴る。僕はたぶん時計のアラーム音で目を覚ました事がなくて、7時前には自然と目を覚ます。目覚まし時計なんか保険みたいなものだ。僕は眠りが浅いのかも知れない。世間の人はどうなんだろう?毎朝アラームの音に驚いて目を覚ましているのだろうか? 僕は保安官補になってもうすぐ2年になる。高校での成績は悪くはなかったが、大学の学費を払えるほど余裕がなかったので、卒業してすぐに保安官補になった。保安官といえば逞しい大男というイメージがあるが、僕はどちらかと言えば華奢な方だ。 中高と陸上の長距離をやっていたので体力には自信がある。しかし、保安官の仕事には腕力が必要であることを痛感し、最近は保安官の勧めで警察署に柔道を習いに行っている。 アラームが鳴るのと同時にボタンを押して止める。まるで早押しクイズだ。毎朝こんな感じ。微睡むのを諦めてベッドから出る。 保安官事務所までは歩いて10分だから、7時45分に部屋を出ればいい。実に優雅。職場の近くに住むということはムダが無くて良い。多くの労働者のように2時間も掛けて電車で通勤したら、働く前に疲れてしまうのではないかと思う。 事務所には実家からでも通えない訳ではない。スクーターで20分位だろう。ただ一人暮らしがしたかったのだ。いつまでも親元にいるとバカにされる。そんな気がした。就職したら独立して自分一人の力で生活しようと決めていた。
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