第三四章

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厳しくも的確な指導してくれたクリス隊長。いつも明るく作戦の指揮を取ってくれたミオ。風邪を引いた時にアスリナが作ってくれたお粥の味。 そのどれもが自分にとっては大切なものだった。それら全てが、消えた。何回もこれは夢じゃないかと思った。 しかし、現実のテレビは夢ではないことを冷酷に淡々と突き付けてきた。夢であってほしかった。夢であって、ほしかった。 大粒の涙を零しながら、少し塩っぱい玉子粥を食べ続ける。すぐに目の前が涙で歪む。それを入院着の袖で拭いながら食べる。 何とか涙と格闘しながら食べ終えた時、病室の扉がコンッコンコンと少し変わったリズムで三回ノックされた。 このノックの仕方をするのは一人しか知らないアレンは、ふと、その人物の名前を口にした。 「……レイン?」 「ピンポーン。大正解、アレン君。ご褒美におれの投げキッスをくれてやる」 やはり、レインであった。レインは昔からこのようなノックする。長年一緒にいるのだ、分からない訳がない。 「投げキッスは止めろ……気持ち悪い」 アレンのその言葉にレインは扉越しでケラケラ笑う。ふと、何故入って来ないのかが気になり、彼に問う。 「何で入って来ないんだ?」 「あー……なんつーか、気まずい? いや、気まずくはないんだけど、まあ……何だろうな?」 「いや、俺に聞かれても……」 「まあ、起きたばかりのアレン君にマシンガントークするほど、おれは空気が読めないって訳じゃないってことで」 「……お前、元から空気読めないだろ?」 「え、ひょっとして今おれ貶された?」 貶してはいない。レインに対してはいつもこうなのだ。それにしても、と思わず口が微笑みの形を作る。この男はいつも通常運転だ。 いや、相当無理しているようだ。扉越しでも彼が無理をしているかしていないかなんて、すぐに分かる。 何年一緒にいると思っているのだ。 明るい声や口調でも取り繕った嘘だというのは一目瞭然だ。 それほど彼に気を遣わせているということに、心苦しく思いながらも口に出すのを止めた。レインはそういうのを嫌うのだ。 だから、心の中で実は心優しい〝兄〟にたくさん謝罪し、たくさん感謝をした。そして、本題に入る。
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