Quest.2 『酒と仲間と男と女』

33/36
12419人が本棚に入れています
本棚に追加
/768ページ
「隙あり、よの」 言うが早いか、マロの右腕が消えた。 少なくともそばで見ていた俺が消えたと錯覚するほどの素早さで、和刀を振るったのだ。 鞘走りの力を加えた神速の抜き業。 それをまともに喰らったヨッパ・ライドオンは、声をあげる間もなく崩れ落ちる。 気づいた時にはマロはもう、納刀するところだった。 「立てるかの?ダスティン?」 「ああ、すまない」 ことの一部始終を寝そべりながら見ていた俺は、マロの手にすがり立ち上がった。 ひび割れ歪んだドアの前には、艶麗で可憐な美女が突っ伏し倒れている。 「斬ったのか?」 「否。峰打ちぞ、安心いたせ」 峰打ちとは、片刃の刀剣の刃のない側で切りつけることだ。 もちろん刃がないのだから切断されることはないが、堅い鉄の棒で思いっきりひっぱたかれたのと同じなので、その被害は『痛い』じゃすまないのはわかるよな。 「しばし青アザが消えぬであろう。哀れであるが、ばん、やむを得ぬ」 「そうだな……」 そしてそのアザの痛みに苦しむのはきっと、あのヨッパ・ライドオンではなく自我を取り戻したシルヴィアなんだろう。 ちょっとやるせないが、こればかりは仕方がないか。 「それにしても驚いた。マロって強いんだな」 「なんぞ、そちはまろが弱いと思っていたのかえ?」 「ああ、正直な」 どう見てもマロは文人だからな。 はっきり言って、武のイメージは全くなかったよ。 「ほほほ、てっきりまろの腕を見込んで旅に誘うたと思っておったに、違うたのかえ?」 いや、そういうのはほら、フィーリングって言うじゃねえか。
/768ページ

最初のコメントを投稿しよう!