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「隙あり、よの」
言うが早いか、マロの右腕が消えた。
少なくともそばで見ていた俺が消えたと錯覚するほどの素早さで、和刀を振るったのだ。
鞘走りの力を加えた神速の抜き業。
それをまともに喰らったヨッパ・ライドオンは、声をあげる間もなく崩れ落ちる。
気づいた時にはマロはもう、納刀するところだった。
「立てるかの?ダスティン?」
「ああ、すまない」
ことの一部始終を寝そべりながら見ていた俺は、マロの手にすがり立ち上がった。
ひび割れ歪んだドアの前には、艶麗で可憐な美女が突っ伏し倒れている。
「斬ったのか?」
「否。峰打ちぞ、安心いたせ」
峰打ちとは、片刃の刀剣の刃のない側で切りつけることだ。
もちろん刃がないのだから切断されることはないが、堅い鉄の棒で思いっきりひっぱたかれたのと同じなので、その被害は『痛い』じゃすまないのはわかるよな。
「しばし青アザが消えぬであろう。哀れであるが、ばん、やむを得ぬ」
「そうだな……」
そしてそのアザの痛みに苦しむのはきっと、あのヨッパ・ライドオンではなく自我を取り戻したシルヴィアなんだろう。
ちょっとやるせないが、こればかりは仕方がないか。
「それにしても驚いた。マロって強いんだな」
「なんぞ、そちはまろが弱いと思っていたのかえ?」
「ああ、正直な」
どう見てもマロは文人だからな。
はっきり言って、武のイメージは全くなかったよ。
「ほほほ、てっきりまろの腕を見込んで旅に誘うたと思っておったに、違うたのかえ?」
いや、そういうのはほら、フィーリングって言うじゃねえか。
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