竜笛の音

8/28
63人が本棚に入れています
本棚に追加
/147ページ
隆也は青羽の手を引いて、帝が入って来た入口とは反対側の障子を開けて走り出した。 本殿の中から唸り声が聞こえてくる。 そして、式神たちの悲鳴。 何かを引き裂く音。 ガタガタ音がしたのち、再びあの笑い声が聞こえてきた。 寺の廊下を走っていた隆也が後ろを振り向くと、束帯を着た鬼がすぐ後ろに迫っている。 そして、懸命に走る青羽の手を掴んだ。 「逃がさん」 「離せ!!」 青羽が悲鳴を上げ、隆也が唸り声を上げながら帝に掴みかかっていった。 「水縞さん!!」 「早く、走れ!!」 青羽はなんとか手を振りほどき、一気に走り出す。 隆也と帝から少し離れた場所につくと、再びいくつかの名前を呼んだ。 それにこたえるように現れる式神たち。 明らかに劣勢の隆也を援護していく。 「こんな屑ども、いくら出したって同じだぞ」 帝が赤く、牙のはえた口を大きく開け、地を揺るがすような声で吠えた。 式神たちは悲鳴を上げて姿を消す。 「青羽さん、早く走れ!!」 なんとか帝を床に引き倒した隆也が叫ぶ。 きつい腐敗臭が、隆也に吐き気を起こさせる。 必死に戦う隆也を振り返りながら、青羽は寺の敷地から走り去っていった。 「銀白様!!」 青羽が叫びながら走ってゆくのが聞こえる。 「おのれ!!」 帝が唸り声をあげ、隆也の首の付け根にかみついた。
/147ページ

最初のコメントを投稿しよう!