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(……まずい)
青は千佳の後を追おうと立ち上がるが、
「…?」
何か後ろから引っ張られる力に反応し青が振り返ると秋が無言で青のシャツを掴んでいた。
「…………」
秋は携帯を取ろうとはせず、切なげな表情で真っ直ぐに青を見つめる……
(そんな目で見ないでくれ……)
本当は今すぐにでも抱きしめたい。
抱きしめて、秋に想いを伝えたい。
「秋さん……俺は」
だが、それを千佳が許すはずがない。
千佳は秋を――
(×すつもりなんだ!)
想像しただけで血の気が引く。
―ぎゅ……
シャツを掴む秋の力が強まる。
―バッ
「ごめん秋さん!」
青は秋の手を振り払って、逃げるように部屋を出ていった。
「千佳ぁッ!!」
階段を駆け下り、千佳の名前を叫ぶように張り上げる。
「お兄ちゃん……ドウシタンデスカ?」
千佳はリビングから顔を出す。
エプロン姿に着替えていて、右手には……包丁が握られていた。
「ち…千佳…?料理……してたのか…………そうだよな?」
「…………」
千佳の瞳は暗く濁っている……
あの時と同じ目だ。
千佳が両親×して青の首をしめたあの時と
『もう一度約束して』
「千佳…?おい…訊いてるのか?」
同じ
『ウソツイタラハリセンボンノーマス……ユビキッタ』
「なんとか言ってくれよ!千佳!?」
目
「……フフ」
千佳は薄っぺらく微笑むとリビングの中へ姿を消した。
「…………」
青はその場で立ち尽くす。
『ウソツイタラハリセンボンノーマス』『ウソツイタラハリセンボンノーマス』『ウソツイタラハリセンボンノーマス』『ウソツイタラハリセンボンノーマス』『ウソツイタラハリセンボンノーマス』『ウソツイタラハリセンボンノーマス』『ウソツイタラハリセンボンノーマス』『ウソツイタラハリセンボンノーマス』『ウソツイタラハリセンボンノーマス』
「……ッぁああ……!」
千佳の呪詛のような言葉が頭の中で何度もリフレインする。
まるで、あの頃の千佳が青の耳元で囁くように。
『……ユビキッタ』
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