5人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
篠崎 賢
『被告を少女誘拐殺人の罪により、菜の花第二病棟の専属医師として着任することを命ずる』
二日前、裁判長により言い渡された言葉が再び頭の中で流れる。
前代未聞であろう刑罰に人々は、一体どんな反応をしているのだろうか。
判決後、ニュースや新聞を見ていないので、それを伺い知ることは出来ないが、恐らく今の自分と同じ感想だろう。
『そんなことがあっていいのか?』
1人の少女を誘拐し、そのうえ殺した人間に対する刑罰が、病棟にいる人間を治療することだなんて、一体それで誰が納得するのだろうか。
罪を犯した自分ですらそうなのだ、他の人がそう思わない訳がない。
「宮間、パーキングエリアは近いか?」
「そうですね、後10kmも走れば着きますが、佐古さん、またトイレですか?」
僕の横に座る筋肉質な男が、運転席に座る男にそう言い、彼もそれに返事をした。
どうやら筋肉質の男の名が佐古で、運転席に座る若い彼が宮間というらしい。
「違ぇよ、昼飯がまだだったろ。次のパーキングエリアで何か買ってきてもらおうと思ってな」
「ああ、了解です。篠崎、お前好き嫌いあるか?」
二人で話していたはずが、不意に宮間から話を振られる。
「えっ、いえ、ないです。おまかせします」
おっと、言ってから気付いたけど、まだ自分の分まで買ってくるなどと一言も言っていなかったのに、図々しくもおまかせしますなんて言ってしまった。
いや、まあ、そこまで聞いといて買わない人なんていないだろうけど。
「はいよ。佐古さんも篠崎もオニギリでいいですね」
「梅以外な」
「判ってますって」
再び二人は、談笑を始めだす。
僕は車内の窓に頭を押し当て、これからのことを考えた。
まず僕は、医師免許なんて物を持っていない。
最初のコメントを投稿しよう!