第一章

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 ここはどこだろう。  少女は気だるくまぶたを開けた。ほんのわずかに開いたまぶたから、霞みきった目が外を見る。  木で作られた天井の骨組みが見えてきた。  天井を構成する板の模様も、数えること百十数秒後にはっきりと見えるようになった。  目を動かしてみる。  久しぶりに光を受け入れた目がしみる。  長方形にくりぬかれた小さな窓が見える。その向こうで、太陽が光り輝いているのが見える。  ――どこだろう。  肌に伝わる柔らかい感触から、布団に寝かされていることが分かった。  しかし身体全体は、ひどく衰弱していて力がまったく入らない。 「…………!」  ふと少女は、その鼻にとてもおいしそうな味噌汁の匂いを嗅ぎ取った。  その匂いはアヤメの強烈な飢餓感と、呼吸だけで身体がきしむような、これまた強烈な痛感を目覚めさせる。う、と少女は短く、小さくうめいた。 「あ!」  唐突に、しっかりとした女の声が聞こえた。  かちゃかちゃとなにやら食器をいじった音と、ばたばたぎしぎしと騒がしく何かが動く音がすぐに後から聞こえてきた。 「目が覚めたかい?よかったよかった!」 「…………?」  気配を消すこともせず、警戒することもせず、疑うこともせず、その女は少女の半開きの目を覗き込んだ。 「心配したんだからね。川に血まみれで流れついたって言うし、息はしててもまったく反応が無いし……」  気兼ねなく話しかけてくる女の行動が、少女には不思議に思えた。  なかなか上質な布で織られた薄茶色の衣服、その上に白い前垂れを着て、黒髪を頭のてっぺんで束ねて玉のようにしている。その声にふさわしく、気の強そうな顔つきで、体格のいい女性だ。 「大丈夫かい?あたしが見える?」  少女はうなずいた。 「よかったぁ。ほんとに心配したんだからね。あんた、一週間も寝たっきりだったんだから」
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