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「止まれ」
ぞわ、と。
嫌な感じが、僕の全身を包む。
「来たか、死神大王」
僕らの目の前、距離にして5メートルの位置に。
不審な男が居た。
死神大王。
一目で解る、恐怖と畏怖の塊のような男だった。
「悪いが儂は簡単に捕まるつもりは無いぞ」
ココロの手には、大鎌が握られていた。
「安心しろ小早川心。
お前は捕らえぬ。処刑だ。
殺す」
「は、どうやって殺すというのじゃ。
儂ら死神は死なないのが長所であり短所ではないか」
「死神王の大鎌(キングデスサイズ)」
死神大王の手にも、大鎌が握られる。
その凶悪さは、ココロの大鎌とは比べものにならない。
「私の持つこの大鎌は、死神を殺すための物だ」
「な!?」
「━━━」
ガキン、と金属音。
死神大王が急速に距離を縮めると、二つの大鎌が激しくぶつかりあった。
その力の差は圧倒的で、ココロは吹き飛ばされる。
「ココロ!!」
「来るでない!!」
ココロのもとへ駆け寄ろうとした僕を、ココロは制する。
ただただ、悔しかった。
何も出来ない自分が、悔しかった。
僕は、叫ぶ事しか出来ないのだろうか。
いつも、ただ見ているだけの僕。
何か、出来る事は無いのだろうか。
……。
ん?
待て。
その時、僕はある事に引っ掛かった。
死神大王の大鎌は、死神を殺すためのものだ。
確かにそう言った。
間違いない。
ならば。
ならば人間である僕が斬られた場合、どうなるのか。
人間を殺す武器で死神を殺す事は出来ないように。
死神を殺す武器で人間を殺す事は出来ないのではないだろうか。
はは、敵に立ち向かうなんて僕らしくない。
でもたまには。
自分らしくなくても、いいじゃないか。
自然と僕は笑っていた。
死ぬかもしれないというのに、僕は笑っていた。
嬉しいんだ、彼女のために出来る事があって。
こんなにも笑える事がまだこの世界に残っているのならば、この世界も捨てたもんじゃない。
彼女のおかげで、僕は今。
生きたいと思っている。
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