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“紅”
あえて付加するなら、紅は紅でも……異様な程色鮮やかな……紅
そして、何より――
鼻を突く、この生臭い香……
殺伐とした荒野に、不気味なほど輝く満月に照らされたそこに、何故……そんな違和感が立ち込めているのか。
「――――ッ」
……少し遠くで、むくりと影が立ち上がる素振りを見せた。
人間だ。
「………………」
放心状態になっているのか、直立不動のその姿は、まるで風景に溶け込んでるかのように、そこに“生あるモノ”を感じられない。
「…………――っだよ」
微かに聞こえた声――何かに毒付くそれは、若い……“男の声”だ。
吹き荒ぶ風が止み、徐々に砂埃が収まっていく。
――彼の両手には、柄の部分に宝石が填(は)められた剣。月光を受け、その両刀は青白い光を放つ。
刃先からは、ぽたぽたと、黒く見える液体が滴り落ちていく。
「…………っ」
彼は舌打ちをし、周りを一瞥した。
この辺り一面を取り巻く異臭の正体。それは――
彼の周りに果てている、この50はいる異形なるモノ達。
この地に伏している、怪物(モンスター)達の死骸からだ……
……言うまでもなく、彼がやったのだが……
「…………」
彼は――立ち尽くしていた。
どこか空虚な気持ちに駆られながら、そこに立ち尽くしていた……
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