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それは抗うことのできない魔法であるかのように、私の体を動かした。
無意識のうちに、その手を掴んだ。自分でも不思議なくらい、ぎゅっと、ぎゅっと――。
「……こんなところにいたら、風邪引いちゃうわ。私の部屋においで?」
自分の口をついて出た言葉に驚いたのは自分自身だった。
しかし、素直に頷いて立ち上がる彼を見ているうちに、生じた戸惑いはいとも簡単に消えてしまう。
ずぶ濡れになったハチミツ色の髪から頬に雨水が伝う。
それはひどく妖艶で、儚くて、大切にしたく思えたのだ。
「…あっ」
「えっ!あっ!」
立ち上がると同時にふらりとよろめいた彼に、私は咄嗟に手を伸ばす。
「大丈夫!?風邪引いたんじゃ…」
「そうかもしれない」
「そうかもしれないって…君はなんでこんなとこでずぶ濡れになってたのよ!」
「いろいろ…あって…」
「…。とりあえず中にはいりましょう」
幸いにも私の部屋は、マンションの一階、ロビーを抜けてすぐのところにあった。
彼を支えながら通路を進み、扉の鍵を開ける。
「一人で歩ける?」
「うん」
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