ある愚かな男の話

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その日から京夜は変わった。仕事はしばらく信頼のおける部下に任せ、照の世話をするようになった。 最初は表情の乏しかった照も、しばらくすると笑顔を見せてくれるようになった。 仕事ばかりで子育てなんてしたことがなかったから分からないことだらけだったが、経験のあるメイドなどに話を聞き、なんとか上手くやっていた。 それと同時に光がいた時に自分にこのくらいの子供への愛情があったら何かが変わっていただろうかと思うと胸が苦しくなった。 しかし、もう遅い。光はもういない。 「…ごめん、光。ごめんっ…」 「お父さん、泣いてるの…?」 自分の不甲斐なさに今更ながら涙が出てきたとき、寝ていたはずの照がこちらを心配そうに見ていた。 「大丈夫だよ、照。」 「…泣かないでぇ、おとーさん、」 自分にはもうこの子達の父親と名乗る資格がないのかもしれない。だがこの子、照のことだけは守らせてくれ。 桃はヒステリックになり、所構わず泣き崩れるようになり、家に篭りがちになった。前の美しさが嘘のように顔はやつれ、髪をとかしもせずボサボサになり表情もなくなった。 そして一番の変化は 照のことを全く無視するようになったことだ。 いや、無視というより照が見えていないかのようだった。 その事に京夜が言及すると、泣き崩れ『光はどこ、どこ』と繰り返した。 、
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