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曇り空はどこまでも続いていた。鉛色の雲がその重みに耐えきれずに、ずっと下に落ちてきたかのようで、手が届きそうだ。 雨が降るのではないかと少し心配になり、それと同時に折り畳み傘を鞄に入れておいたかどうか不安になる。 時計に目線を移すともうあと5分で授業が終わる時間になっていた。 数学の先生は自分で書いた数式の計算に戸惑っていた。もうだいぶ年配なためか、先生が2日に1回は計算をミスするおかげで、紗英のクラスは隣のクラスよりも少々授業が遅れ気味だ。 最初は内職ができると喜んでいたクラスメイトたちも、最近では他クラスとの差に不満をこぼしはじめている。 紗英の通う高校は、毎年有名大学へ多くの生徒を送り出す県下トップの高校だ。真面目な生徒たちは、他クラスに遅れをとることが許せないのだ。普段は授業の遅れなど気にしない紗英だが、夏休み前の期末テスト2週間前となれば話は別だ。 「たぶん移項して、符号が変わるから答えは32です。」 みんなのイライラが頂点に達し、鐘が鳴る少し前だった。不機嫌そうな、呆れたような口調で紗英の隣の席に座る男子が言った。 その生徒、東野裕太は学年1頭がいいとの噂だ。 「……あぁ、こうか。」 納得し、先生は正しい答えを黒板に書いた。なんとなく、教室が落ち着いたような雰囲気に変わる。 鐘が鳴り、先生は申し訳ないと一言いうと教室を出ていった。
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