蟻たち

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
蟻は退屈でした。 蟻は何でも知っているから退屈でした。 蟻は今までにたくさんのことを経験し、たくさんの仲間達と出会いました。 喜びも悲しみもたくさんありました。 今まで見たこともない物を巣に運んだ時は、仲間達は驚き、賞賛し、蟻を称えました。 蟻も新しい物の発見に胸を躍らせ、毎日外の世界を冒険しました。 でも、蟻はもうそんなことをする気はありませんでした。 その喜びも驚きも、全て知っていたからです。 蟻は退屈でした。 蟻は恋をした時もありました。 うまくいかない時もあれば、うまくいく時もありました。 蟻はそのたびに喜んだり悲しんだりしました。 でも、蟻はもうそんなことをする気はありませんでした。 蟻はどんな出会いにも別れがあり、最後には悲しむことを知っていたからです。 蟻は退屈でした。 もう蟻は何もしませんでした。 仲間達も、何もしない蟻に話しかけませんでした。 ある日、一匹のアリが蟻に寄ってきました。 蟻はとても嬉しく思いました。 でも、蟻は別れの悲しみを知っていました。 蟻は悲しみたくなかったので、仲良くなることを我慢しました。 仲良くなろうと寄ってきたアリはひどく悲しみました。 もう二匹が会うことは二度とありませんでした。 蟻は今までにないくらい大声で泣き、悲しみました。 蟻は知らなかったのです。 泣いている蟻を見た仲間達は蟻を慰め、そして励ましました。 蟻は今までにないくらい仲間達を頼りました。 蟻は知らなかったのです。 蟻は仲間達と悲しかったこと、楽しかったこと、退屈だったことをたくさん話し合いました。 仲間達はそれぞれが知っていることがあり、知らないこともありました。 蟻が知っていることは、蟻が知っていることだけでした。 それから蟻はたくさんの仲間達との出会いを大切にしました。 何でも知っている蟻なんて一匹もいませんでした。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!