メンス・エクス・マキナ

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その音から、名残惜しげに視線を外して、黒い少女は白い少女の方を向いた。その頬が、紅の色味を少しばかり強くする。 「わたしも、いつか歯車になれるかなって、思って」 細くこの小さな部屋でさえ消えていくソプラノが紡がれた。 この音律を奏でた黒い少女は、歩き辛いドレスに足を取られないように注意しながら、白い少女のいるベッドまで訪れた。 白い少女は、黒い少女を招くために座り位置を直す。黒と白、二人の少女がやって来ても、ベッドにはまだ余裕があった。 「……よく、わからないんだけど」 白い少女は素直にそう応える。不機嫌そうなアルトが、しかし黒い少女の意思を聞き漏らさないためにも、薄い唇から零された。 黒い少女は、小さな右手で自分の左胸を押さえながら、しばらく逡巡していた。人と接する機会が極端に乏しい彼女が、他人に分かりいい言葉を選ぶのには時間がかかる。 カチ、カチ、カタ、カチ、―― その部屋は静寂を取り戻した。
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