メンス・エクス・マキナ

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「楽しい?」 一つの声が、静寂を一瞬だけ切り裂いた。幼く甘い、軽く紡がれたアルトの音律が黒い少女に問いかける。堅表紙の本から顔も上げずに、そのアルトを零した少女は、二人ほどなら余裕で寝られるベッドの上にいた。 健康的な、白い少女だった。薄手の白いワンピースは、紋白蝶のように軽やかで、流麗で、奇妙だった。染めてもいない亜麻色の髪は、癖もなく伸びて、さらさらとキメ細やかに薄ぼんやりとした橙の光を照り返している。そんな明るさに包まれた彼女の肌は、健康的に色づいていて、夏の向日葵を思わせる美しさがある。その眩しさは、この外から切り離された静けさの中でも、太陽に比べれば弱すぎるスタンドライトの光の中でも、陰っていない。 カチ、カチ、カチ、カチ、―― 時計の針は進む。何もなくとも、何があっても。決められた旋律を守って、その身が朽ち果てるまで。
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