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ソロンの居室へと向かう途中。 偶然出くわした人物にセシリアは頬を綻ばせた。 「あら、パリス。おはよう」 「セシリア。おはようございま……あれ?」 「どうかした?」 挨拶を返したパリスが、佇むセシリアの姿に首を傾げた。 動作と共に背を流れた金の髪が、澄んだ朝日を孕んで甘く輝く。 「なんだか、セシリア……ええと……綺麗になったような気がして」 「それは光栄ね」 絶世の美形といっても過言ではないパリスからの賛辞をさらりと流そうとして、セシリアはふと言葉を切った。 「パリス、あながち間違いでもないかもしれないわ」 「いや、うん。別に元から冗談じゃなかったんですけど」 苦笑するパリスをよそに、セシリアは自身を観察する。 細い指先を飾る爪は綺麗に磨かれているし、長い黒髪も一本一本がさらさらと指通りが良い。 「マナがやったのよ。これからはさりげないお洒落を突き詰めるんだって息巻いていたから」 「彼女らしいね」 照れを滲ませ頷いたセシリアは、常の落ち着きの中に別の穏やかさを垣間見せる。 パリスは目元を和ませた。 「安心した」 ぽつりと落とされたパリスの言葉。 不思議そうなセシリアの表情が漸く、少しだけ年相応に見えて小さく息を吐く。 「セシリア。立場上、君の事は守れない。でも、マナは大丈夫。もし何かあっても僕が害させません」 「そんな……貴方が心配する事じゃないのに」 「せめてものお詫び、というわけではないけど……セシリアの安らげる場所くらいは作らせて欲しいんです」 真剣な声にセシリアが困った様子を見せる。 払拭するように軽やかに笑ったパリスは、悪戯に片目を閉じた。 「それに、可愛い女の子達は大切にしなきゃ。でしょう?」 セシリアがまじまじとパリスを凝視した。そして、ふっと笑う。 「ありがとう。甘えさせて頂くわ」 「そうして下さい。……では、いざ戦場へ」 「参りましょうか」 遠い目をしたパリスが神妙に言って、セシリアは肩を竦めて苦笑する。 そうして緊張と不安を内包し、セシリアはソロンと対峙すべくパリスの背を追った。
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