●無表情故の悲劇

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●無表情故の悲劇

フィーネとスィールのその昔  笑う必要なんて、なかった。  俺を買う男たちは、媚びなんか必要としない。目的は身体だけだったから。  泣く必要なんて、なかった。  いくら泣いて謝っても、あの母親という人物が俺を打つ手は止まらない。子供の泣き声なんて逆上の原因にしかならない。  怒る必要なんて、なかった。  これが俺の人生だからと受け入れた。それが出来たら、どんなことにも怒りなんて湧かなくなった。  笑うなんて、泣くなんて、怒るなんて、今まで必要なかった。そんなことをしても、何も変わらない。  だから、顔に浮かべるのは一番楽な無表情。  自分の人生は一緒こんなだから、表情なんて必要ないと思っていた。  なのに。 「フィーネ、笑ってくれないか?」  悲しそうに眉を垂らす、金髪の青年。さらさらと、細い髪は頭の中ほどで一つに結われ、うなじを隠す程の長さにまとめられている。 「嫌なことがあれば怒っていい、悲しいことがあれば泣いても良い」  そういう声は淡々としているけれど。自分の為に言ってくれているんだということは、確かに感じた。 「……俺では、お前の心を動かすことは、出来ないか」  悲しそうに、眉を垂らすその人は、俺の兄。  俺をあの地獄から、救ってくれた人。  そんなことはない、と胸の中で叫んだ。  あなたに気にされることがひどく嬉しい。  あなたを悲しませることがどうしようもなく悲しい。  あなたを悲しませている自分が非常に嫌だ。  ただ、これらの感情を表に出すことが出来ない。それだけの話。  嗚呼、これは、なんという。  無表情故の悲劇なんだ。  
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